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グローバル・プロジェクトで起きがちな遅延、メンバーのコミット度合いの低さなどを未然に防ぐグローバル・コーディネーター(PMO)の役割をご説明させていただきます。
1. グローバル・コーディネーターとは?
グローバル・コーディネーターは、グローバル・プロジェクトで海外関係者の調整を担当するPMOを言います。海外担当PMO、グローバル・コーディネーターなどいろいろな名称が使われますが、国内向けPMOに比べ進捗管理などのタスク管理の負担は少なめで、小規模MTGを各拠点の関係者と行う中で調整力を発揮しなければいけないロールです。
基本的な要件の1つとして高い語学力が求められます。海外関係者とのMTGやコミュニケーションは時差の関係もあり、国内関係者と同じ頻度で行われることは難しいです。コミュニケーションをみっちり取る機会が限られているため、海外と国内関係者の妥協案や利害が一致するポイントを導くことが求められます。単純にビジネス英語を使うだけでは、そのような対応は難しいです。
①細密な事前準備(国内関係者との事前打ち合わせ、資料準備、落とし所のポイントの把握など)を通じてできる限りその場での合意形成を目指す
②それが困難な場合は、両関係者の利害が衝突するポイントを特定し、解決のために次週のMTGまで各参加者が行うべきアクションを決める
プロジェクトの遅延を防ぐためには、毎回のMTGでこのような運用をすることが望ましいです。
また、海外関係者は国内関係者に比べ本社の細かい意思決定の背景にあたる情報について知らないケースが多いです。
なぜこのスケジュール?なぜこのベンダー?なぜこのプロジェクト?
という質問が所々出た場合は手元に資料がなくても瞬発力を発揮し、背景や目的にあたる情報を理屈を付けて頭の中で整理しその場で回答する必要があります。その中で国内関係者を上手く巻き込み、実のある会話ができるように流れを作っていく、また本題の議論に戻るよう参加者を誘導するなどのMTG運営をスムーズに行えるかでグローバル・コーディネーターの能力の高さが決まります。
言うまでもなく、今列挙したことは経験あるコンサルなら国内PJで誰でも実施していることです。すごくシンプルに言うと、日本語でコンサルとして行っているMTG運用、クライアントに対する配慮、ファシリテーションが英語でスムーズにできればよいだけです。そのため、「英語ができる」だけは足りなく、「英語でコンサルティングの仕事をするポジション」という意識が必要です。
2. 具体的な業務内容
プロジェクト開始直後であれば、最も重要な業務は海外関係者向けのKick off MTGの実施準備です。プロジェクトのプランニング段階で合意を取らないといけない海外関係者に対しては、クライアントが事前に情報共有を実施したケースが大半です。但し、実態としては合意形成が行われたのではなく、情報共有を実施しただけであり、計画のすり合わせも含めた海外拠点との合意形成はKick off MTGで行われる場合が多いです。
事前準備を手厚くするコツとしてはなるべく早めにKick off MTG資料のドラフトを用意し、クライアントと数回レビューをする中で海外関係者との今までのやり取りや先方が気にしている点、社内のあらゆる関連情報についてさり気なくヒアリングする機会を作ることです。このプロセスを通じて海外拠点向けにカスタマイズされた資料もできあがり、MTG中に突発的に出る海外関係者からの質問に対しても対応できるネタを仕入れることができます。
一旦資料が出来上がると、あとは経験豊かなコーディネーターのMTG運営力が重要になります。例えば、「質問に対する回答」というシンプルな観点でもコーディネーターによって差が出ます。資料の説明は自身で行い質疑応答はクライアントに任せる人もいれば、一般的な質問に対しては自身で回答するが参加者が攻撃的な態度を取るとクライアントに任せるなど。全ての質問に対してコーディネーターが回答する必要はございませんが、即回答が困難な質問ほど国内担当者もどのように回答するか考えを整理する時間を必要とします(英語MTGであるからなおさら)。そのあたりも配慮し、即回答が困難な質問ほど適切な回答をしつつなぜそのような質問をしたのか意図を探る逆質問をするなど同席しているクライアントが適切な回答をするために必要な追加情報を聞き出すことができると理想的です。
Kick off MTGが全てではありませんが、グローバルPJだとKick off MTGの出来次第でプロジェクトの流れが概ね決まると個人的に思います。Kick offで合意形成されていないPJは海外関係者の参加率が徐々に下がり、音信不通やPJ遅延になりやすいです。Kick off MTGが無事に終わった場合は、プロジェクトの進捗具合に応じてタスクの依頼や討議MTGの進行がメインのタスクになります。
3. グローバルPJで心掛けていること
海外関係者とのプロジェクトで最も心がけていることはラポール形成を意識しプロジェクト・メンバーの結束力を高める、グローバル・ワンチームを作ることです。自分の趣味や天気について雑談をするという意味ではありません。物理的に距離が離れていることやコミュニケーションを取る機会が限られていることからちょっとしたことでも誤解が発生し、抵抗や不満として表れやすいです。それらに対し、謝った上で誠実に説明する、可能であれば意見を受け入れて改善するということです。距離が離れているからこそ、真面目に向き合い丁寧なコミュニケーションを取る人が信頼されると思います。
次に重要なことは資料作成力だと思います。限られた時間内で意思決定をすることが求められるため、できれば資料は海外関係者向けにカスタマイズするのが望ましいです。国内関係者向けの資料をそのまま翻訳して出す場合であっても、パワポの上段に書き込むコメント等は修正するようにしています。
最後に、フリーディスカッションにならないようMTGおよび参加者をコントロールすることも重要です。シンプルに言うとコーディネーターはクライアントがそのMTGで決めたいことが決まるように場をコントロールし、流れを作っていくことが役割です。Time managementも含めて強制的な態度を取らずそのような流れに誘導していくを心掛けています。